2013-10-18

800

この人たちは、『死人の魂は、海象(せいうち)の頭といっしょに踊らせておけばいい』という、この人たちなりの信仰に従って考えていたのです。心も、眼も、歌と踊りにばかり向けられていました。

799

この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎばなしなのです。

798

わたしの光は、その子のお墓の上の不滅花(むぎわらぎく)の花輪にキスをしたものです。

797

「世界を思ひやれ。隣人を愛せよ。因襲の外をゆくことが最も進んだ芸術の道であらねばならぬ、否それが新芸術それ自身だ」 (夢二)

796

「一様に育てる美術学校は君には向かない、自分で自分を育てなさい、君の道は苦しいが、その覚悟でやりなさい」 (東京美術学校の岡田三郎助)

795

古典というものは、単にそれが年代的に古いというだけでなく、さらに重要な特性は、その内容が民族ないし人類の精神の血肉となっているということである。 「これからの宗教は芸術です。これからの芸術は宗教です」(賢治が友人に宛てた手紙より) 賢治の童話は詩であると言われるが、彼は童話の創作に当たっても使用する言葉の音感に非常に敏感であった。 (「新しい古典復活の弁」 小倉豊文)

794

表面陽気に見えるところもあったが、小さい時から、何ともいえぬ哀しいものを持っている兄であった。 (「兄、宮沢賢治の生涯」宮沢清六)

793

わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行われていた鹿踊りの、ほんとうの精神を語りました。 鹿どもの風にゆれる草穂のような気もちが、波になって伝わって来たのでした。 (鹿踊りのはじまり)

792

(とうとう牢におれははいった。それでもやっぱり、お日さまは外で照っている。)山男はひとりでこんなことを呟いて無理にかなしいのをごまかそうとしました。 「まったくそうだ。章魚(たこ)ぐらいりっぱなものは、まあ世界中にないな。」 (山男)

791

ひとりの子供が、赤い毛布(ケット)にくるまって、しきりにカリメラのことを考えながら、大きな象の頭のかたちをした、雪丘の裾を、せかせかうちの方へ急いでおりました。 (水仙月の四日)

790

(ああ、マジエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません。) (烏の北斗七星)

789

雲がすっかり消えて、新らしく灼かれた鋼の空に、つめたいつめたい光がみなぎり、小さな星がいくつか連合して爆発をやり、水車の心棒がキイキイ云います。 (烏の北斗七星)

788

四人(よったり) (狼森と笊森、盗森)

787

森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれだと思っているだけでした。 (狼森と笊森、盗森)

786

すきとおったほんとうのたべもの (序)

2013-03-06

785

「いいえ、お礼はどうかとってください。わたしのじんかくにかかわりますから。」 『どんぐりと山猫』

784

「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃめちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」 『どんぐりと山猫』

783

そのとき、一郎は、足もとでパチパチ塩のはぜるような、音をききました。びっくりして屈んで見ますと、草のなかに、あっちにもこっちにも、黄金(きん)いろの円いものが、ぴかぴかひかっているのでした。よくみると、みんなそれは赤いずぼんをはいたどんぐりで、もうその数ときたら、三百でも利かないようでした。 『どんぐりと山猫』

782

一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。 『どんぐりと山猫』

781

まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、まっ青なそらのしたにならんでいました。 『どんぐりと山猫』

2013-02-25

780

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

779

伝統的な主題を扱いながらも、世の不条理を独自のエロティシズムと、きわめて現代的な感覚で表現しているところに、ゴヤ芸術の魅力がある。 (『ロス・カプリチョス』)

778

さかりのついた猫に当分の間、静粛にする様に伝達したい。聴かなければ取締まると云うことにするにはどうすればいいだろうと古木君に話している内に、同君が下車する道角まで自動車が来た。 (「立春」)

777

間もなく節分になり、その内お彼岸も近くなる。物干しや廂(ひさし)の上で節分猫、彼岸猫が騒ぎ出すだろう。 (「立春」)

776

燈りの少い町外れの宵は変に淋しくて、空地の前を通る時は、大きな穴の縁を伝うような気持のすることがあった。 (「白猫」)

775

見よ、わたしは、今日、命と幸い、死と災いをあなたの前に置く。(申命記30:15)

774

自然の律法をキリストは砂糖のように甘くした。(ツヴィングリ)

773

今しんがりの者があとで先頭になり、いま先頭の者がしんがりになるのです。(ルカ13:30)

772

Going in peace. 平和のうちに行きなさい。(ルカ8:48)

2012-08-09

771

人間へ、人間へと闖入の足を荒だてていく氏は、所詮、人間の業苦を見つめるだけである。ふくよかな幸福などから裏切られた世界にみずから堕ちていくしかないのである。何という光栄ある貧乏くじであろう。(松永伍一)